シーン2
- 21lastplay
- 2021年2月4日
- 読了時間: 2分
「だからさあ、お前、結局何者なワケ?なんでウチに来たんだよ。」
使い古されたソファは、腰をかけると身体が吸い込まれるように沈んでいく。どっかりと我が物顔で座る百瀬朔太郎は、ふんぞり返って、まるで王様のようだ。不機嫌そうに七星を睨む目も鋭くて、思わずゴクリと唾を飲む。一方でその隣に座る橘桃華は、楽しげな曲を口ずさんで上機嫌だ。もらった飴の袋を破く前に、桃華は朔太郎の手元をチラリと見た。
「朔ちゃん、いいなあ。桃。」
桃華が甘えるように呟くと、朔太郎はむっと口を尖らせる。
「なんだよ。あげないけど…」
「え、別にいいし。朔ちゃんの好きなブドウと交換してあげようと思ったけど、いいし。」
「ちょ…そういうの早く言ってよ。ほら。」
朔太郎が素直に飴を渡すと、桃華は意地の悪い笑顔を浮かべた。朔太郎の手に乗せられたのは、オレンジ色の飴。好きでもなければ嫌いでもない、微妙なフレーバーだった。嘘をつかれた朔太郎は怒ったが、期間限定の桃味は既に桃華の口の中。がっくりと肩を落とした朔太郎を見て、中林夢乃は苛立ち混じりの溜め息をついた。
「ブドウ、そんなに欲しいのか?」
「べっつに?!いらねーし!」
七星が押し付けるように差し出したのはブドウ味だったが、朔太郎はフイとそっぽを向く。七星はその言葉に「そうか」と短く返して、容赦なくブドウ味の袋を破いた。口に放り込まれた瞬間にバリバリと砕かれる音を、朔太郎は少し切なげな表情で聞いている。
「朔、弱すぎじゃん?」
「まあ、これがウチのデフォだからねえ。」
夢乃の辛辣な言葉に、日下部夏樹は強めのエナジードリンクを煽って、力なく笑った。「デフォ?」と首を傾げる七星に、朔太郎は「普段通りって意味!」と間髪入れずに返す。
「つーか、それもおかしいだろ。なあ、育。」
朔太郎が呼ぶと、育美は僅かに肩を揺らした。部屋の隅で控えめに立っていた育美は、相変わらず背を丸めて、顔を隠すように俯いている。返事が返ってこないことを不思議に思った朔太郎は首を傾げ、くるりと振り返った。
「育?」
改めて名前を呼ばれて、育美はさらに小さく縮こまった。口を開いて何かを言いかけては、またぎゅっと唇を結んでしまう。微妙な沈黙に耐えかねたのか、夏樹は髪を雑に掻き上げてわざとらしいあくびをひとつ零し、七星と向き合った。
「んで?森田クンは何で演劇部に?」
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