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シーン4

  • 21lastplay
  • 2021年2月7日
  • 読了時間: 3分

「ああー、もう終わった。お終いだ、さようなら俺のDK時代…さようなら、俺の青春…」


高校、編入、入試なし。適当な単語を検索エンジンに突っ込んで高速スクロールをしながら、朔太郎は涙目で七星を睨んだ。


「何も終わってないだろ、別に。」

「終わってるっつーの!学院長に喧嘩売ったんだぞ?!ヤバすぎるだろ…退学だよ絶対…」


ぶつぶつと泣き言を言い続ける朔太郎の横で、桃華もまた、神妙な顔をして座っていた。


「でもさ、実際ヤバいよ。嵐ヶ丘祭で公演なんて、私たちには…」


桃華が語尾を濁すと、夢乃が苛立ちを吐き出すように息をついた。木製の机を叩く乾いた音が狭い部屋に響いて、勢い任せで立ち上がった夢乃に注目が集まる。朔太郎のお経のような文句もピタリと止み、部屋は張り詰めたような沈黙に包まれた。


「どうしてくれんの、これ。」


夢乃が冷え切った表情で詰め寄ると、七星は真っ直ぐに夢乃を見据えた。


「芝居、する。芝居して、此処を守る。」

「守れないよ。此処は潰される、アタシたちも終わる。あんたの無責任なヒーローごっこのせいでね。」


夢乃の言葉に、七星はピクリと眉根を寄せる。


「ヒーローごっこじゃない。俺たちが守らないで、誰が此処を守るんだよ。」


七星ははっきりとした口調で言葉を続けた。


「此処は俺たち、演劇部の場所だろ。」


一瞬でも目を逸らしたら負けな気がして、夢乃は七星を睨み続けた。


「…じゃあ、あんたに何ができんの?ヒーロー気取りとか、馬鹿みたい。アタシたちもあんたも、なんか奇跡起こせるほどすごくなんかないでしょ。」


「いっくん、どうすんの?」


口を開こうとする七星を押しのけて、夢乃は部屋の奥で立ち竦む育美を見た。上手く影を潜めていたつもりなのか、声をかけられたことに驚いたのか、おどおどと後退りをして俯く。そんな育美を咎めるように、夢乃はもう一度「いっくん」と名前を呼んだ。


「何で、俺…?」

「何でって、部長じゃん。アタシたちの。」


夢乃が強い口調でそう言うと、育美はぎゅっと唇を噛んで目を逸らした。誰も何も言わない沈黙の中で、みんなが育美の答えを待つ。それでも言葉を発しようとしない育美を見て、夢乃は乱暴に鞄を肩に引っ掛けた。


「あたし、パス。無理って分かってることに首突っ込んで恥かきたくないし。やりたいな

ら勝手にやってれば?」


早口でそう吐き捨てて、夢乃は部屋を出て行った。後を追うつもりで立ち上がった桃華を拒絶するように、建て付けの悪い扉が派手な音を立てて閉じる。その様子を一部始終目で追っていた朔太郎は、怒り任せに七星の胸ぐらを掴んだ。


「おい、お前のせいだぞ!」

「何がだよ。」

「全部だよ!!お前が来たから、こうなったんだ。お前が変なこと言わなきゃ…!」


朔太郎の言葉を断ち切るように、七星はその手を振り払った。朔太郎よりもずっと小柄な七星は、下から刺すように朔太郎を見る。その視線に怯んで、朔太郎は一歩後ずさった。


「やるしかないだろ。何もしなかったら問答無用で潰される。演劇部はなくなる。それでいいのか。」


返す言葉が見つからない朔太郎は、ぎゅっと下を向いたまま震えるほど強く拳を握る。これ以上はマズいと判断したのか、夏樹は黙って朔太郎と七星を引き剥がし、その間に立った。まだ何か言いたげな七星は、ガサツな手つきで頭を掻き、小さく舌打ちをする。喧嘩がしたいわけじゃない。ただ、芝居を渋る理由がわからなかった。ぐるぐると頭の中で考えを巡らせているうちに、視界の端に立つ育美の存在に気づいたのか、七星はずんずんと育美に詰め寄って行った。


「お前は?…お前は、どうしたいんだよ。」


目と目が、あまりにも近い距離にあった。近すぎて逸らせないまま、育美は七星と向かい合う。その真剣な表情が、育美の逃げ道をどんどん塞いでいった。




使用した音素材:OtoLogic(https://otologic.jp)

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