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演出 寳井真友 インタビュー

  • 21lastplay
  • 2021年3月29日
  • 読了時間: 12分

聞き手:夏樹役 春楓


ーではまず名前と学年を教えてください。


寳井:はい、ID21で4年生の寳井真友です。演出をしています。


ー今回の物語を思いついたきっかけを教えてください。


寳井:実は元々演劇をテーマにした演劇をやってみたいなと思っていたんです。

そして今回21の卒業公演という一つの節目になる物語を書く上でどういうテーマにし、どういうメッセージをこめるかを考えたときに、演劇をテーマにしながら未来に繋げるということをメインテーマにして書きたいと思いました。これは黄河砂自体が昔から続いてきた団体であるからこそ、自分たちがやってきたことが未来につながっていけばいいなという思いと、「演劇が好き」「演劇をやりたい」という意思や気持ちが作品を通して伝わるといいなという気持ちがあったからです。

 そして今回の脚本を執筆するにあたり過去の作品を見返してみたのですが、学園ものをやったことがないことに気がつきました。今までとは違うキャストの演技、そして劇団としての作品のジャンルの幅を広げたいという思いから21卒業公演に学園ストーリーを選びました。


ーなるほど。では寳井さん自身の演劇のルーツについて教えてください。


寳井:私自身の演劇のルーツはかなり昔のもので、幼稚園の頃にあります。初めて宝塚に連れて行ってもらい、「雨に唄えば」というミュージカルを観たのが始まりです。それから舞台を観ることが好きになり、高校生になってから本格的に演劇を観るようになりました。好きな演出家の先生の作品を多く観たり、好きな俳優の出演作品を追いかけたりするようになって世界が広がり、演劇を通して広がったコミュニティーで友達ができたりしました。そんなこんなで高校生の頃には演劇が自分にとってなくてはならないものになり、生活に根付いたと思います。大学入学後は黄河砂に入って演劇にどっぷりでした。


ー本公演では脚本の執筆をしている寳井さんですが、創作のルーツはなんでしょうか。


寳井:創作のルーツも同じ頃にあります。幼稚園の頃に初めて買ってもらったノートが犬の絵が書かれたもので、買ってもらえたことがとても嬉しくて表紙の犬に合わせた絵本を書いたんです。とはいえ、当時はまだ文字があまり書けなかったので自分でアイウエオ表を見て書いたり、親に代筆してもらいながら犬の一生を描いたのを覚えています。出来上がった絵本を色んな人に見せるとすごく褒めてもらえたのが記憶に残ってて、それから物語を書くことが好きになりました。それ以降、小学校でも創作作文とか書くのが好きで、中学高校でも物語をこっそりノートに書いたりしていました。


ー今までの黄河砂での思い出を教えてください。


寳井:入学して初めて黄河砂を知ったのは花見(新入生向けに各団体が勧誘の場を設けているイベント)の時で、部活紹介の日に多目的ホールで行われていた黄河砂の過去作品の上映会を観にいきました。そこで一つ上の先輩たちのデビュー公演が自分の心を掴んで、流れでその他の作品も見入ってしまいました。その上映会が「今まで演劇は好きだったけど、自分が作る側になりたい」と思った瞬間で、私はその場で入部届をもらって記入しました。

 最初の公演はデビュー公演。動き始めるにあたってキャストとスタッフの役職を決めることになり、私はいつか演出を担当したいと考えていたので、まずは経験を積むべく舞台監督補佐を務めることになりました。その時はキャストが多く、裏方スタッフが少なく寂しかったです。先輩と話すのは楽しかったんですが、周りの同級生はほとんどがキャストだったので仲良くなる機会が少なかったかなと感じていました。でも実際小屋入り(ホールを貸し切って公演の準備をすること)するとキャストかスタッフかなど関係なく楽しく活動できたと思います。そしてデビュー公演で印象に残っているのは裏方として千秋楽のラストシーンを舞台裏で見ていた時、本番に向けてやってきたことなどを思い出して一人で泣いてしまったことです。自分たちが作ってきたものが形になり、お客さんに見てもらえてやりがいを初めて実感でき、裏方を選んで良かったと思えた瞬間でした。舞台監督は役者が最大限舞台の上で芝居ができるように整えるのが一つ大きな仕事だと思うので、それが達成できたその瞬間はとても記憶に残っています。

 デビュー公演で裏方として活動していこうと決めたのにもかかわらず、意図せずキャストをすることになったのが、次の公演でした。


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キャストとして舞台に立つ寳井さん


ーキャストをやってみてどうでした?


寳井:この公演は大変と感じることもあればやってみて良かったと感じることもたくさんありました。実は私がキャストになると決まったのが諸事情で本番まであと少しというところだったので自分自身戸惑いがありました。キャストを務めるのは初めてだったので、演出補佐として稽古を見ていたにもかかわらず、実際に演じるとなると何も勝手がわからず大変でした。ただ、スタッフをやっていた頃とキャストとの距離感が変わったことでそれまで理解できなかった役者側の気持ちもわかるようになったのでいい経験だったと思います。


ーでは今回の21卒業公演への思いを教えてください。


寳井:実はこの公演に向けての脚本執筆や、キャスト・スタッフ決めなどの準備は2年前からしていたんです。準備段階で自分のやってみたいことを21の部員に話すとみんな共感してくれたのでだんだん作品としてパッションに溢れたものになっていきました。そんな中、コロナ禍で公演を打つことはできないということになり、それまでの計画が全て狂ってしまいました。トラブルはつきものだと思ってはいましたが、まさかこんなに大きな壁にぶつかるとは思ってもいなかったので残念ではありました。ですが、いざ舞台ではできないとなった時、自分で思っていたよりも悲観しなかったのは他の21の部員たちが自分たちの卒業公演をあきらめるのではなく、「じゃあどうしよう」という姿勢を見せてくれたからだと思います。部員だけでなく、新しく入ってくれた24の子達や、今回動画を作成するにあたり協力してくれた人もたくさんいたからこそ成り立っている公演なので、終わらせないで繋げようとしてくれた多くの人の思いがたくさん詰まった公演になっています。


ーコロナの拡大はやはり大きい影響がありましたよね。


寳井:そうですね。ただ、悪いことばかりではなかったと部員も私自身も思っています。映像として私たちの演技が残るのは少し恥ずかしい気もしますが、形として見返すことのできる映像に残りますし、今後の部員たちにも残せると思うとポジティブに考えることができました。


ー今回演出を務めるのは3回目ということですが、普段演出を考える際のこだわりや気をつけていることなどはありますか。


寳井:私が常に気をつけているのは、演出としての自分のイメージや解釈をただ押し付けるのではなく、キャストやスタッフとコミュニケーションを取るということです。作品を作る上では、キャストの方が脚本の読み込みや役作りなどに精通していると思うので、そこに演出の考えをすり合わせることでいいものが出来上がると考えています。なので私は極力時間を惜しまず、出来るだけ話し合って相手を知ろうとしています。そういう意味ではスピーディーに進めることはできないのですが、丁寧に作品をキャストやスタッフと作り上げられていると思います。


ー演出の仕事とその醍醐味を教えてください。


寳井:演出は最終的な意思決定権を持っているリーダーでもありますが、作品のイメージや全体像を統一、監修するということの方が主な仕事かと思います。またそのほかにも一つの作品としてまとまるようにキャストの演技指導、スケジュール調整、お金のことや運営、舞台照明の提案や舞台美術を通して表現する世界観の監修などを手がけます。最初は監修するにも知識がなく難しいと思いますが、作品を知ろうとする姿勢や知識のあるキャスト・スタッフとのコミュニケーションを通してイメージをブラッシュアップしようとする姿勢が一番大切だと思います。

 そして醍醐味ですが、演出の仕事が多岐にわたる分やりがいはほんとにたくさんあります。ただ、やっぱり一番は「自分の作品を見て!」と自信を持って周りに自慢できる舞台になった時です。自分が作ったもの、というよりは『自分が今一緒にやってる仲間達のここを見て!」という気持ちが強くあり、上手くいったシーンなどを稽古で見ていると鳥肌がブワッと立って「早く見て欲しい!」と達成感のようなやりがいを感じます。


ー今回の21卒業公演の見所やお気に入りのシーンなどを教えてください。


寳井:今回は舞台上ではなく初めて映像で作品を届けるという点は私たちにとっても新鮮だったのでぜひ注目して欲しいと思っています。内容に関しては普段大学生をしているICU生が気持ちを若返らせて高校生を演じているということに注目してみてください(笑)。

あとはキャストみんなが演劇を始めたきっかけや演劇に対する思いを振り返って役作りした作品で、それぞれがどのような想いで演じているのかなどを想像しながら見てもらえると楽しんでもらえると思います。演劇をやっている人が演劇を演じる意味がそこにあると思うので、ぜひ注目してみてください。

 そして旧D館が改修工事に入るということで、本公演がオーディトリアムホールを使える最後の機会でした。なので今後ICUに入る後輩たちに向けて旧D館を、そしてOBOGのICU生たちには思い出を残せたのではないかなと思います。そういう意味では旧D館の映像が今後も見返すことができるという見所もあります(笑)。


好きなシーンは多すぎてあげることができないんですが、作品自体が過去と未来が入り混じるお話なので、未来側の子達のわちゃわちゃしている空気と過去の子達の大人びて落ち着いた雰囲気は楽しみながら撮影できました。未来の演劇部の賑やかでフレッシュな可愛らしさは色々なシーンに散りばめているのでみてもらえると嬉しいし、逆に過去の演劇部は影も落としつつ、でもまだ高校生らしく楽しんでいる姿が要所要所で見られるので、キャストが撮影中に演じているのをみていて楽しんでいました(笑)。


舞台上だと時間に制限があるのでなかなかじっくり描けない部分を今回映像や文字で描けたので大変ではありましたが、なかなか楽しんで作品を作り上げることができました。


ーそうですよね、なかなか脚本が未完成の状態で100ページを超えることはないですもんね(笑)。


寳井:ただそれだけ主人公ではないサイドのキャラクターたちのことも描くことができたということなので、普段舞台では汲み取ることのできないサイドの人たちの物語もぜひ注目して見て欲しいですね。


ー本作品に込めたメッセージを教えてください。


寳井:とにかく何があってもつなげてほしい、ということですね。見てくれた人がこの作品を通して演劇に対する何かしらの想いを馳せてくれるもいいし、何かやりたかったことが自分の中で途切れてしまうことは誰にでもあることだと思うから夢や想いを繋いでいくために振り返るきっかけになるといいと思います。もっと言うと、立ち止まって自分の思いや目標、夢と向き合って、止まってた時間がこのプロダクションを見たことで進んだり、完全な形でなくても未来に繋がったりしたらいいなと思います。


ー今回のテーマには「繋ぐ」というのがあると思いますが、後輩たちに向けて一言メッセージをお願いします。


寳井:まず今回のプロダクションに参加してくれた後輩たちにはとても感謝してます。

大学2、3年生というと学生として一番時間や体力があって楽しい時期だと思うんですが、その時間を本公演のために割いてくれたことに嬉しく思います。みんなが演劇に対して色々と強い思いを抱いてやってくれていることを感じられたのでその想いに応えられていたらいいなと思っています。パッションをぶつけてくれる後輩と信頼できる同期がいたからこそ私は演出として立っていられたし、力をもらえていました。

 そして今後演劇をやりたい、黄河砂に入ろうかなと考えてくれている子には「演劇はやりたいと思った時にやるべき」と伝えたいです。演じる上で人生経験は大切だと思いますが、遅すぎることなんてないと思うのでいつでも飛び込んできて欲しいです。演劇はチームプレーでもあるし、個人プレーでもあるし色々な要素があるので、その中で自分のやりたいこと・得意なことを見つけてみてください。黄河砂を一緒に繋いでくれる人をいつでも待っています!!


ー演技はできないなと感じている人でも関わり方は色々な形があると言うことですね。


寳井:そうですね。演技をするのかと思えば大道具を作ったり、お金の管理をしたり、衣装を作ったりと関わり方は人それぞれです。裏で支えるスタッフがいないと舞台はできないので、決して演技をしなくてはいけないと言うわけではありません。


ー本作品が演劇の話と言うことにちなんで、今後どんなことに挑戦してみたいですか?


寳井:恐れ多くも今後も演出として演劇に携わっていきたいと思います。裏方で支えることが自分にもあっていると感じたので例えばですが、演出補佐として後輩の作品作りなどを手助けしてみたいです。ただ次こそは映像ではなく舞台演出ができるといいですね。


ー最後に寳井さんにとって演劇とは。


寳井:私にとって演劇は「自由になれる場所」であり、「枝分かれしたもう一つの人生」です。

現実だけど現実じゃないと言うところに面白さを感じて、舞台のあるホールは自分のいる現実なんだけど舞台の上に広がっている世界は例えば宇宙空間だったり、全然違う時代だったりするわけで、そんな中で人が演じていると言うことで人が動かしている世界観と言うところに魅力を感じます。

演劇をやるのは自分が色んな意味で自由になれるものだからですね。それをやっている間は自分の生きている現実世界から一瞬だけ解き放たれるんです。頭の中に広がる世界が文字になるのが面白くて。オーディのなかが江戸時代になったり、自分で世界を作り上げることができるのが魅力だと思います。自分の人生は思ったより思い通りにいかないけど、演劇の中では何にでもなれてどこにでも行けるので。逃げるわけではなく、人生の中でもう一つの自分が自由になれる場所があると楽しい。それに気づけてよかったなと思います。


ーキャストの中にも同じような理由を教えてくれた人がいましたが、これだけ人が集まると動機も似たようなものもあれば全く異なるものもあり、様々な想いを持った人たちの集まりなんだと感じます。


寳井:他のキャストの動機も気になりますね(笑)。


ー本作品をみてくれている人たちへ意気込みとメッセージをお願いします。


寳井:スタッフ・キャスト全員この先どうなるかわからない状況で一生懸命に本プロダクションを形にしていっているので、完成した暁にはぜひみていただきたいです。個人的にワクワクする企画がたくさん詰まっていますし、短い動画や録音音声など全てにおいて色々な人のこだわりが詰まっているので、純粋にコンテンツを楽しんでくれると嬉しいです。


コロナ禍で先が見えない時期ではありますが、『春に駆ける』というタイトルにもあるように未来に希望を見出して駆けていく、ということも一つの想いとして込めています。この作品を読んでいてくれている間だけでも明るい気持ちになってくれたら幸いです。


ーありがとうございました。

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