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シーン33
「驚いたな。まさかあんたが自ら、取り壊しの撤回を宣言するなんて。」 茶化すように笑う声に振り向くと、そこにはかつての後輩が立っていた。妙にさまになっている制服姿に、思わず溜め息が出る。いつまでその縒れたブレザーを着続けるつもりなのだろう。今年こそ卒業させなければ、伝説どころ...
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2021年3月31日読了時間: 8分
シーン32
世界から、音が消えた。 急な物音に驚いて、はっと顔を上げた。 変わった様子のない舞台。 育美が演じる律は、不安げな表情で七星を見ている。 そうだ、台詞。 そう思った時にはもう、頭の中が真っ白になっていた。 それまで繋がっていた、みんなで紡いできた物語の糸が、ぷつりと切れる。...
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2021年3月28日読了時間: 3分
シーン31
予期せぬプロローグを経つつも、本編の滑り出しは順調だった。七星と育美の芝居が、よく噛み合っている。午前のいざこざが感じられないほど、二人とも冷静だ。 育美の繊細な表現力に、七星の真っ直ぐで芯の強い芝居。正反対だが、不思議とお互いを邪魔しない。...
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2021年3月27日読了時間: 2分
シーン30
まるで悪夢を見ているようだ。 客席最後列で、透也は座った膝に置いていたこぶしを握り締める。 『...ごめん、でも、俺はここに残るよ。蓮だけでも東京に...』 『嫌だ、俺はお前と一緒に東京に行くんだ。』 『蓮...』 『お前が行かないんだったら、俺だって...』...
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2021年3月24日読了時間: 2分
シーン29
『スタンド・バイ・ミー』 『スタンド・バイ・ミー...?』 『スティーヴン・キング。恐怖の四季さ、秋の物語。少年と、死と、冒険。君はきっと、その話をしている。違うか?』 『….違うわ。』 『なんだよ...じゃあトム・ソーヤだ。それ以外に考えられない。』...
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2021年3月20日読了時間: 3分


シーン28
「あ、キタキタ!来たよ、問題児ズ。」 「うわ、マジだ!もー、ギリギリすぎるってば!」 かもめ館の前で待機していたヘアメイク担当が、人混みを掻き分けながら向かってくる二人の姿を指差す。それを見た衣装担当も、手持ち無沙汰に眺めていたSNSを閉じて、安堵の溜め息をついた。...
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2021年3月19日読了時間: 3分
シーン27
ブン……という低い音とともに、辺りに光が戻った。 「つ、点いた…?」 「うん、上手くやったみたいだねえ。」 あちこちから安堵の声や歓声が上がり、再び祭りの賑やかさが戻る。作業中断を余儀なくされていたスタッフたちも、それぞれの持ち場へと散っていく。...
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2021年3月15日読了時間: 4分
シーン26
開演を控えた舞台の袖は、慌ただしさと、少しの焦燥感が混ざって渦巻いていた。夏樹と勝吾を中心に部員たちが衣装、音響、照明といった準備に追われる中、桃華は気もそぞろの様子で朔太郎に尋ねる。 「ねえ、七星から連絡あった?」 「ないってば!さっきも言ったろ?」...
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2021年3月14日読了時間: 4分


シーン25
「芝居をしないか」そう促されるまま、育美は台本を手に七星と向かい合う。 足を肩幅に開き、肩の力を抜く。そうやって初めて、声の出しやすい姿勢を、意識もせずに自然にとるようになっていた自分がいることに気が付いた。稽古で培っていたものが、知らずの間に積もっていたらしい。...
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2021年3月10日読了時間: 5分


シーン24
時々、思い出すことがある。 自宅の汚れたガラス窓から、ほんのりと紅く染まった葉が散るのを見ていた。 余程退屈そうに見えたのだろう。晴にいは俺に、一冊の脚本を貸してくれた。 ページをめくって、目についた台詞を片っ端から読んでみる。それだけのことでも、晴にいは大袈裟なくらい褒め...
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2021年3月8日読了時間: 5分


シーン23
「…つーか俺、昨日はゲネ後真っ直ぐ帰れって言ったよな?」 「それはすんませんした。」 腕を組んでジト……と見下ろす勝吾に、七星は素直に頭を下げる。 その横で、話を聞いていた朔太郎と夢乃は首をかしげた。 「でもそれ、どういうこと?育、なんで怒ったん?」...
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2021年3月7日読了時間: 4分
シーン22
「あ、ちょっと百瀬くん!動かないでってば!そんなパチパチ瞬きしないで!」 「え…う…どうやって…?」 「気合で。パチパチしなきゃいいから。パチパチ。」 「パチパチとは?」 朔太郎の肩をがっしり掴んだメイク担当は、手際よくアイラインを引いて、すぐさま夢乃のヘアセットに取り掛か...
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2021年3月4日読了時間: 5分
シーン21
また、どうでもいいことを思い出していた。 くだらなくて、阿呆らしい。なんの価値もない、過ぎた日のことだ。 若気の至りなんて、そんなにいいもんじゃない。無駄で無益だったあの時間は、俺の人生の空白だ。何も残らないし、何を得たわけでもない。...
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2021年3月3日読了時間: 6分


シーン20
沈み切る直前の西日が、残り火のようにジリジリとする季節だった。夏休みもあと数日というところ。晴にいはダイニングテーブルにかじりつき、ノートに何かを書き続ける毎日だ。 きっと忙しいんだから、邪魔をしちゃいけない。……でも、もうすぐ学校が始まってしまう。そうしたら夏の間のように...
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2021年3月2日読了時間: 5分
シーン19
土曜日の昼下がり。その人はいつも、近所の河川敷にいた。 ぼろぼろのノートを片手に、何かをうんと考えて、書いて、また考える。 そんな退屈そうなことを、日が暮れるまで飽きずに繰り返す、そんな人だった。 出会ったのは偶然だった。...
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2021年2月26日読了時間: 5分
シーン18
勝吾は外のベンチに深く座って、台本を眺めていた。年季の入ったそれは、今度上演する、懐かしい、忘れがたい演目。沢山のメッセージが込められたこの作品を綴ったその人は、もうこの世にいない。伝わってほしい相手は意固地になって、受け取ろうともしない。『星屑の英雄たち』にも、結局彼は来...
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2021年2月25日読了時間: 3分
シーン17
「どこまで行っても独りって、なんだよ…」 頭の中で、同じ言葉がずっと渦を巻いていた。 今日の稽古は散々だった。育美との掛け合いは上手くいかず、他の部員たちも稽古を途中放棄。部屋に残ったのは、七星だけだった。 一人でも稽古はできる。今までだって、ずっとそうしてきた。...
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2021年2月23日読了時間: 5分
シーン16
「じゃ、こんな感じで。あとはヨロ。」 「了解です、宣伝は任せてください!」 「ありがと。じゃあ、また。」 手を振って小走りで部室に戻っていく新聞部員を見送って、夏樹は冷めた缶コーヒーを一気に啜る。 公演の準備が本格的に始まって一週間。裏方チームの準備は概ね順調だった。広報を...
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2021年2月22日読了時間: 4分
シーン15
「そろそろ考えないとやばいよなあ、本番の演目。」 朔太郎の柔軟を手伝いながら、勝吾は悩ましそうにひとりごちた。背中を押されている朔太郎が「痛いんだけど?!」と懸命に抵抗しているのに、どこか上の空だ。 「あーねえ。どうしようかねえ。」...
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2021年2月21日読了時間: 7分
シーン14
昨日の小テストは散々だった。テストの存在を忘れていた七星は教科書を家に忘れ、仕方なく教科書を貸してしまった朔太郎は、一点足りずに追試決定。追試常連の七星と共に、今は再試の勉強をしている。放課後の教室は静かで、窓の外から運動部の元気の良い号令が聞こえるだけだ。真面目に教科書を...
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2021年2月19日読了時間: 4分
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